2000/12/05 (火) 「猫兄弟のおはなし」



* 猫兄弟のおはなし *


アタシの家には生まれて間もない時から可愛がってきた、6匹の兄弟猫がいました。
それぞれにやんちゃで可愛らしくて、家族みんなから文字通りの「猫っ可愛がり」です。
1番のお兄ちゃん猫は長男らしく、面倒見がよくてみんなのまとめ役です。
2番目はお兄ちゃんと張り合いながらも、元気で冒険好きで弟達のあこがれです。
3番目は自由でおしゃれで気ままなロマンチストです。
4番目はしっかりもので、まだ小さな時によそのおうちのコになりました。
5番目は一生懸命お兄ちゃんについて行こうとする努力家です。
6番目はちょっと泣き虫だけどやさしい子で、兄弟みんなに可愛がられています。


兄弟達は、一緒に遊んだり喧嘩をしたりしながら大きくなりました。
4番目のコがよそのおうちのコになったときも、最初は淋しくて泣いてばかりだったけど
みんなで助け合って、淋しさを乗り越えてきました。


夏の始めのある日、冒険好きの2番目が1人で外の世界へ遊びに行くと言い出しました。
『ボクは海を見に行きたいんだ』
もちろん兄弟達と一緒に遊ぶのも好きだったけど、ちょっと自分1人の力を試してみたくなったのです。
家族のみんなは「危ないよ」と止めたけど、1番目のお兄ちゃんは彼の勇気を信じて、送りだしてあげることにしました。
弟達は本当は一緒に行ってみたかったけど、やっぱりまだちょっと怖いので、もう少し大きくなるまで我慢することにしました。
1番目のお兄ちゃんは「疲れたり怪我をしたりしたらココに帰ってくるんだよ」と、心の中で思いました。
2番目の負けず嫌いをよくわかっていたから、口には出さなかったけど、ほんとはとても心配だったのです。


それから数ヶ月。2番目のコはみんなの待つおうちに帰ってきました。
外の世界には最初は楽しいこともあったけど、彼が思っていたよりうんと厳しくて辛いものでした。
そして、彼はまだまだちいさな子供猫だったのです。
くたくたに疲れて、沢山怪我をして、とっても痩せてしまった彼を見て、弟達は悲しくなって泣いてしまいました。
家族のみんなも「だから言ったでしょー。おバカさん」と言って泣きました。
でも1番目のお兄ちゃんは何も言わなかったし、涙も見せませんでした。
ただ、元気を無くしてしまった弟に「おかえり」と言っただけです。
そのとき初めて、ずっと歯を食いしばって我慢していた2番目のコの大きな瞳から涙がぽろぽろとこぼれたのです。


その夜、兄弟達は久しぶりにみんなで同じ部屋で暖かいご飯を食べました。
2番目のコは兄弟達に、外の世界の楽しかったこと、ビックリしたこと、辛かったことをゆっくりと話して聞かせました。
そして「いろんなコトがあったけど行ってよかったよ。そして、帰ってきてよかったよ」と言って
最後にちょっとだけ笑って泣きました。
兄弟達はやっぱり2番目のお兄ちゃんが好きだし、2番目のコもやっぱりみんなが好きだと思いました。
そして、いつか今度はみんなで外の世界に冒険に行こうと約束して、揃って眠りにつきました。


 *-*-*-*-*


街はもうすっかり冬です。
でも春が来る頃には、きっと2番目のコの怪我も良くなって元気になってることでしょう。
そうしたらちょっぴり大人になった兄弟達は、全員揃って外の世界に出掛けます。
『まだ海を見たことがない弟達は、きっと喜ぶだろうな』
2番目のコはまだちょっと痛む後脚をかばうように座って、庭に降り積む雪をじっと見つめています。


1番目のお兄ちゃんがアタシの傍に来て、小さな声で言いました。
「ね。アイツもちょっと大人になっただろ」
アタシも小さな声で言いました。
「そうだね。ちょっぴりね」
                                     * おしまい *